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門人たちと技術の伝承
片品村の絹遺産

永井流養蚕術伝習所実習棟  |  リストへ戻る

 

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明治二十年、永井紺周郎は時の県令・中村元雄より「蚕学者としては学問深からざるも実地指導には造詣深き者」と、その養蚕技術に関する実際的な知識を高く評価され、「養蚕指導名を永井流となし広く指導なすべし」と命ぜられた。紺周郎は伝習所の建設を決意し、妻いと、嗣子文作、主だった門人たちと「永井流養蚕傳習所開設願」を起草し、設計に取りかかったが、病によりその完成を見ることなく五月四日逝去する。享年五十七。

翌二十一年二月二十五日、県から正式に養蚕傳習所の設置許可が下り、いとと二代目紺周郎をついだ文作はさっそく門人たちと郷土の有志たちの協力を得て建設に取り掛かった。その設計概念は当時としては画期的なもので、現在かなり老朽化が進んでいるものの、創建当時の姿をとどめている。

なお、伝習所はほぼ並行して川場村谷地、敷島村津久田の二か所に建てられたが、それらは現在は所在が不明である。

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この建物は、平成26年7月、片品村重要文化財に、その後平成27年1月、「ぐんま絹遺産」に指定された。現在群馬県及び片品村の歴史的文化財保護方針により修復工事が進められている。

 

以下、この伝習所に関する県庁からの質問に対する答え

Q1:建物の特徴

A1:

  1. 築後125年を経てもなお基本的な構造はそのままに残っている
  2. 全体が方形のシンメトリカルな構造を持っている
  3. 人の出入り、物資の搬入・搬出、通気のための開口部が東西南北に設けられており、学習・実習の機能性を設計の基本コンセプトにおいている
  4. 柱の間口は通常の1間より広い(約2,300p)ことから、人家と根本から違う、蚕籠の寸法に合わせた設計をしている
  5. 中心部、東西方向にわたって太い頑丈な二重の梁構造を持つ
  6. 屋根の構造部分は、現在時点から見ても巧妙に組み立てられたもので、これも建物の基本構造が維持されている理由のひとつであり、創建当時の大工の技術の高さを示している
  7. 現在は屋根には瓦が乗せられているが、その重量にも耐えている(創建時点では一般的だった杉板で屋根をふいていた=永井留治氏の証言)
  8. さらに、この地域の立地条件(冬季の積雪への対策)をも考慮している
  9. 1階、2階とも蚕室として必要な蚕棚やこのめ棒の穴(棚を可動的に設置するため横棒を差し込む切り込み)の痕跡が支柱に残っている
  10. 2階は実習(作業実習)を主用途としたものであるのに対し、1階は間仕切りの形跡があることから、講義・座学のために座る、また夜間に蚕を観察し給餌しなければならない時に仮眠するなどの必要に対応できる平面が設けられているなど、多機能性を考慮したことがうかがえる
  11. 伝習所と母屋は位置的にも連携しており、母屋から伝習所の2階へは架橋で行き来できるようになっていて、これも2階と1階の機能が少し違うことを推測させる

Q2:「養蚕の専門学校としての機能に絞った設計」の具体的説明

A2:

  1. 上述のように、四方に広い開口部があり、居住生活の空間として通常必要な壁面がなく、その設備の形跡もないこと
  2. 門人希望者に必要な知識や技術を実践的に習得させるには一定期間滞在させなければならないが、居住と実習の一部は母屋で、その他の実習と講義は伝習所で行った(永井留治氏の証言)=機能の分化
  3. 蚕伝習所と母屋の目的と機能の分化を具体的にいうと、蚕種の掃き立てから始まり、一眠〜四眠、上簇までの養蚕過程で、「いぶし飼い」の中核(火を焚いて温度調節を行い、煙を廻らす)の部分は母屋で、その前後、蚕が繭を作るまでを伝習所で実習した、とうことである
  4. この時間的な機能分化の根拠は、伝習所に「いぶし」の痕跡がないことである(繭に煙があたると煤けて品質=商品価値が落ちるため、この過程は行わなかったと説明できる)
  5. 対照的に、母屋2階の窓付近外側は広い面積にわたって煤の跡が残っている(永井留治氏所有の写真)
  6. 「機能に絞った設計」の建物は、それまで家業として養蚕と人の生活が同一空間で行われ、二つの目的・機能を同時に果たしてきたという職住一体の生活形態が、ここで初めて(少なくともこの地域では)分離するという変化をもたらしたことをも示している

Q3:一般公開について

A3:

  1. 建物の所有者(現当主=永井啓之氏)の意向により、現在(平成26年11月17日)のところ、いわゆる一般公開の予定はない
  2. 「片品村指定重要文化財」としての学術的・文化的な調査目的をもつ場合は、教育委員会が所有者に交渉する
  3. 針山地区の景観の一部として、ある程度の距離からの観察は可能であるが、そのためのいわゆるビューポイントの整備、案内看板や説明資料の用意はできておらず、具体的なスケジュールは合意されていない

追記:この建物については非常に多くのことが観察され、推測されるが、今回は上記の3つの質問にのみ答えた。書ききれない部分は別途機会があれば対応し、直接口頭で説明する用意があることを言い添えておく。

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